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AeroEdge(株)

東証GRT 7409

決算:6月末日

20250917

決算概要

2025年6月期決算は、売上高が3,602百万円(前期比7.5%増)と増収を達成したものの、営業利益は655百万円(同7.1%減)、経常利益は565百万円(同33.0%減)となった。一方で、当期純利益は734百万円(同5.1%増)と過去最高となった。売上高は期中に下方修正を実施しており、当初想定を下回る結果となった。一方で、営業利益は期初予想の500百万円を上回る着地となった。当期純利益は、安定的な利益計上により、税効果会計で繰延税金資産を一括計上したことで、法人税等がマイナス(利益)となり大きく上振れした。


セグメント別または事業別の増減要因

売上高は、ボーイング社のストライキによる「チタンアルミブレード」の販売伸び悩みがあったものの、全体としては順調に増加した。A320neoファミリー向けの売上高は概ね想定通りであった。営業利益は、為替の影響に加え、前期に立ち上げを想定していた新規案件が後ろ倒しになったことで、減価償却費の負担が軽減されたことが上振れの主な要因である。


主要KPIの進捗と変化

737MAXとA320neoファミリーの受注数と納入数については、ボーイング社でストライキや品質問題、エアバス社でLEAPエンジンの納入遅れが発生している影響で、やや想定を下回っている。一方で、エンジンはスペアエンジン需要もあるため、機体の増加と比較して伸びが高いと認識している。その結果、主要KPIであるチタンアルミブレードの販売量は前期比11.5%の増加となった。


季節性・一過性要因の有無と影響

2025年6月期の業績に影響を与えた一過性要因は、為替の影響と繰延税金資産の一括計上である。為替の影響は営業利益を押し上げ、繰延税金資産の一括計上は当期純利益を大きく押し上げた。


通期見通しと進捗率・達成可能性

2026年6月期の通期見通しは、売上高4,930百万円(前期比36.9%増)、営業利益810百万円(同23.6%増)、経常利益725百万円(同28.3%増)と増収増益を見込んでいる。当期純利益は前期繰延税金資産を計上した反動で500百万円(同31.9%減)を見込んでいる。チタンアルミブレードの販売は今後も強い需要が続くと見ている。今期、販売量が27.5%伸びる見込みであり、チタンアルミブレード売上高もそれに連動して伸びる見込みである。新規案件の立ち上げや、新材料供給に伴う受託開発の売上も貢献する見通しである。


トピックス

当期は人員採用を積極的に進めており、前期に30~40名規模で採用を増やし、社員数全体で約2〜3割増加している。これは、国内の地元採用に加え、海外の大学との連携を含むグローバルな採用活動の成果である。新規案件の立ち上げや、新材料の供給に伴う受託開発の売上も今後のトピックスとなる。

・資料

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​企業名

上場市場 証券コード

​決算日

取材アーカイブ

  • 創業の経緯

    現在の社長の森西氏は、自動車や建設機械などの歯車を製造する菊地歯車という会社の一社員であった。森西氏は、菊地歯車の成長を目指す中で、成長産業である航空機ビジネスに可能性を見出し、航空機産業に参入。サフラン社の案件を獲得するも、航空機ビジネスは初期投資が大きく、初めての海外取引で為替リスクも負う必要があったため、自ら会社を設立することを決意し、DBJ様や豊通様などからの出資も得て、独立してAeroEdgeを立ち上げたという経緯を持つ。

     

    ビジネスモデル

    AeroEdge社のビジネスモデルは、航空機エンジンの部品製造を中核とする。

    この業界は、航空機メーカーがボーイングとエアバスの2社で中・大型機の市場のほぼ100%を占めるという寡占市場であり、航空機エンジンも大きく分けてGE、Pratt & Whitney、Rolls-Royce、Safran社による寡占状態にある。AeroEdge社は、エアバスA320neoファミリー向けCFM International (GEとSafranの合弁会社)のLEAPエンジンと、ボーイング737MAX用のLEAPエンジンに使用されるチタンアルミブレードを供給している。LEAPエンジンは、多くの航空機に採用されており、市場の大きなシェアを占めている。

     

    特徴や強み

    AeroEdge社の強みは、チタンアルミブレードの加工技術力である。

    LEAPエンジン向けチタンアルミブレードを製造しているのは、世界で2社しかなく、AeroEdge社はそのうちの1社であり、40%のシェアを持つ。チタンアルミは固くて脆く、また形状が複雑であることから加工が非常に難しい。それを実現できる能力が同社の強みであり、加工用工具(エンドミル)も自社で開発・製造し、設備も特注で設備メーカーに依頼している。また、航空機業界には、加工だけでなく、特殊工程と呼ばれる様々な工程があるが、同社はこれらの工程を一貫して担えることも強みである。

     

    成長戦略

    同社の将来展望としては、今後も需要が拡大することが見込まれるチタンアルミブレード事業の拡大、加工技術を活用した新たな量産案件の拡大、並びにチタンアルミブレードの新材料の量産がある。新たな量産案件としては、本社工場敷地に新工場を建設し、量産開始に向けて取り組んでいる。

    また、積層造形技術(3Dプリンター)を活用した開発も進めており、新たな製造業ビジネスを確立していくことを目指す。

     

    航空機業界の市場動向

    航空業界は、年間3%から4%の成長率で拡大すると言われており、今後も成長が見込まれる。航空機メーカーのエアバスとボーイングは、非常に多くの受注を抱えており、受注残は10年以上となっている。

     

    業績見通し

    同社のメイン事業であるチタンアルミブレードの販売数量は、来期は10%~15%の成長を見込み、再来期は今期に対して40~50%程度の成長を見込んでいる。来期の成長率がやや限定されるのは、ボーイングが品質問題等により生産拡大に時間がかかっているからである。

     

    新規案件

    同社は、新たな航空機エンジン部品の量産を進める予定である。これらはチタンアルミブレードとは別の部品であり、昨年新設した工場で、まもなく量産を開始する予定である。

     

    株主還元策

    現時点では、配当や自己株買いは実施していないが、将来的には株主還元も重要だと考えており、成長投資とのバランスを考慮しながら、検討していく方針である。

    創業の経緯

    現在の社長の森西氏は、自動車や建設機械などの歯車を製造する菊地歯車という会社の一社員であった。森西氏は、菊地歯車の成長を目指す中で、成長産業である航空機ビジネスに可能性を見出し、航空機産業に参入。サフラン社の案件を獲得するも、航空機ビジネスは初期投資が大きく、初めての海外取引で為替リスクも負う必要があったため、自ら会社を設立することを決意し、DBJ様や豊通様などからの出資も得て、独立してAeroEdgeを立ち上げたという経緯を持つ。

     

    ビジネスモデル

    AeroEdge社のビジネスモデルは、航空機エンジンの部品製造を中核とする。

    この業界は、航空機メーカーがボーイングとエアバスの2社で中・大型機の市場のほぼ100%を占めるという寡占市場であり、航空機エンジンも大きく分けてGE、Pratt & Whitney、Rolls-Royce、Safran社による寡占状態にある。AeroEdge社は、エアバスA320neoファミリー向けCFM International (GEとSafranの合弁会社)のLEAPエンジンと、ボーイング737MAX用のLEAPエンジンに使用されるチタンアルミブレードを供給している。LEAPエンジンは、多くの航空機に採用されており、市場の大きなシェアを占めている。

     

    特徴や強み

    AeroEdge社の強みは、チタンアルミブレードの加工技術力である。

    LEAPエンジン向けチタンアルミブレードを製造しているのは、世界で2社しかなく、AeroEdge社はそのうちの1社であり、40%のシェアを持つ。チタンアルミは固くて脆く、また形状が複雑であることから加工が非常に難しい。それを実現できる能力が同社の強みであり、加工用工具(エンドミル)も自社で開発・製造し、設備も特注で設備メーカーに依頼している。また、航空機業界には、加工だけでなく、特殊工程と呼ばれる様々な工程があるが、同社はこれらの工程を一貫して担えることも強みである。

     

    成長戦略

    同社の将来展望としては、今後も需要が拡大することが見込まれるチタンアルミブレード事業の拡大、加工技術を活用した新たな量産案件の拡大、並びにチタンアルミブレードの新材料の量産がある。新たな量産案件としては、本社工場敷地に新工場を建設し、量産開始に向けて取り組んでいる。

    また、積層造形技術(3Dプリンター)を活用した開発も進めており、新たな製造業ビジネスを確立していくことを目指す。

     

    航空機業界の市場動向

    航空業界は、年間3%から4%の成長率で拡大すると言われており、今後も成長が見込まれる。航空機メーカーのエアバスとボーイングは、非常に多くの受注を抱えており、受注残は10年以上となっている。

     

    業績見通し

    同社のメイン事業であるチタンアルミブレードの販売数量は、来期は10%~15%の成長を見込み、再来期は今期に対して40~50%程度の成長を見込んでいる。来期の成長率がやや限定されるのは、ボーイングが品質問題等により生産拡大に時間がかかっているからである。

     

    新規案件

    同社は、新たな航空機エンジン部品の量産を進める予定である。これらはチタンアルミブレードとは別の部品であり、昨年新設した工場で、まもなく量産を開始する予定である。

     

    株主還元策

    現時点では、配当や自己株買いは実施していないが、将来的には株主還元も重要だと考えており、成長投資とのバランスを考慮しながら、検討していく方針である。

  • Q:特徴や優位性をご説明ください。

    A:弊社の強みは、高度な加工技術力にあります。

    チタンアルミブレードは、その構造上、非常に複雑な形状であり、それを高い精度で量産するには、高度な技術力が求められますが、弊社はその能力を有しています。この高度な加工技術を実現するため、エンドミルなどの工具も自社で開発・製造し、生産設備についても設備メーカーに特注で製造を依頼し、加工プログラムも自社で作成しています。そのため、他社が同じ設備を導入したとしても、同等の製品を製造することは困難です。また、航空機業界では、部品の加工のみならず、特殊工程と呼ばれる様々な工程が存在しますが、弊社はこれらの工程を一貫して担うことが可能です。試作段階であれば対応可能な企業もあるかもしれませんが、量産ベースで安定的に製造できる企業は世界でも限定されると考えています。

    弊社は、会社設立当初よりトヨタ生産方式(TPS)を導入し、量産工程の安定化を図ってきました。株主である豊田通商様を通じて、TPSの専門家を招き、指導を受けたことも、弊社の強みです。

    さらに、弊社は、航空機エンジンメーカーと直接取引を行っており、これは航空業界において非常に重要な意味を持ちます。日本の中小企業で航空機関連事業に携わっている企業の多くは、重工メーカーのTier2(二次請け)サプライヤーであり、重工メーカーでさえ、OEMのTier1(一次請け)サプライヤーという位置づけです。

    中小企業が工程の一部を担当するという形態が一般的ですが、ブレードの全工程を一貫して製造できる中小企業は、重工メーカー以外にはほとんどありません。OEMの仕様や品質要求は非常に厳しく、それらを全て理解した上で工程を構築し、加工だけでなく、非破壊検査などの特殊行程も含めた全ての工程を担うことは、非常に高いハードルとなります。そのため、日本の中小企業は、重工メーカーの指示のもとで事業を行うのが一般的です。しかし、弊社はOEMと直接取引を行い、全ての工程を自社で完結させています。これは、弊社の技術力が高いことの証であると考えています。

     

    Q:成長戦略のポイント(今後の取り組みやトピックスなどを含む)はなんでしょうか?

    A:成長戦略としては、今後も需要が拡大することが見込まれるチタンアルミブレード事業の拡大、加工技術を活用した新たな量産案件の拡大、並びにチタンアルミブレードの新材料の量産があります。新たな量産案件としては、本社工場敷地に新工場を建設し、量産開始に向けて取り組んでいます。

    また、積層造形技術(3Dプリンター)を活用した開発も進めており、新たな製造業ビジネスを確立していくことを目指してまいります。

     

    Q:株主還元の方針をご説明ください。

    A:現時点では、配当や自己株買いなどの株主還元策は実施しておりません。現在、様々な案件に積極的に投資を行っている段階であり、株主還元よりも事業への投資を優先することが、結果的に株主様の利益に繋がると考えているためです。しかし、将来的な株主還元は重要な経営課題であると認識しており、今後の投資計画とのバランスを考慮しながら、具体的な実施策を検討してまいります。

  • 取材者:AeroEdgeというお名前は、社員の皆様が決められたのですか?

     

    回答者:はい、そうです。複数の候補の中から、最終的には社員の投票で決定しました。

     

    取材者:もともとは菊地歯車という会社だったのでしょうか。

     

    回答者:弊社は、足利で80年以上の歴史がある老舗のオーナー企業である菊地歯車からスピンアウトした会社となります。

     

    取材者:菊地歯車は、もともと航空機関係の事業をされていたのですか?

     

    回答者:菊地歯車は、自動車や建設機械などの歯車を製造している会社でした。現在の弊社社長の森西は、当時そこで社員として在籍しておりました。一方で、森西は、いち社員として、会社の成長に不安を覚えており、その中で、成長産業である航空機ビジネスに可能性を見出し、営業部長として航空機産業に参入しようとしました。サフランという案件を獲得したものの、航空機ビジネスは初期投資が大きく、初めての海外取引で為替リスクも負う必要があったため、森西が自ら会社をスピンアウトして設立することを決意し、その後、DBJ様や豊田通商様などからの出資も得て、独立して会社を立ち上げたという経緯です。そのため、現在は、菊地歯車とはビジネス上のつながりはありません。

     

    取材者:株主構成を拝見しましたが、株主様に菊地歯車がいらっしゃいますね。

     

    回答者:はい、会社をスピンアウトした際、元々100%だった出資比率が、増資や上場時の売出しなどを経て、20%弱まで低下しました。

     

    取材者:菊地歯車との間に利害関係はないということですか?

     

    回答者:ええ、特にありません。良好な関係を築いており、株主様として大変ありがたく思っています。

     

    取材者:80年以上も事業を継続されている菊地歯車というバックボーンは、信用につながりますね。

     

    回答者:そうですね。森西がスピンアウトしましたが、立ち上げ時の銀行借入の際は、菊地歯車の保証が必要でした。立ち上げにおいては、菊地歯車の存在が不可欠だったのは事実です。

     

    取材者:創業の経緯についてお伺いしたかったので、お答えいただき大変助かりました。それでは、貴社のビジネスモデルについてご説明いただけますか?

     

    回答者:はい、弊社のビジネスですが、航空機エンジンの部品を製造しております。航空機業界は非常に特殊で、自動車産業などとは異なり、寡占市場となっています。ご存知の通り、航空機メーカーはボーイング社とエアバス社の2社で、中・大型は市場のほぼ100%を占めています。同様に、航空機エンジンも寡占状態にあります。大きく分けて、アメリカのGE、Pratt & Whitney社、イギリスのRolls-Royce社となっています。

     

    取材者:自動車メーカーはエンジンを自社で製造するのが一般的ですが、航空機メーカーは違うのですか?

     

    回答者:はい、航空機用エンジンは、航空機同様に開発に巨額の資金が必要となり、ボーイング社やエアバス社でも自社で開発する余裕がないというのが実情かと思います。

     

    取材者:そうなのですか。

     

    回答者:はい。また、航空機と航空機エンジンの種類も非常に限られています。例えば、ボーイング社は基本的に777、787、737MAXの3機種のみを新規で受注しており、エアバス社もA350、A330、A320neoファミリー、A220の4機種のみです。そして、それぞれの機体に専用のエンジンが搭載されています。例えば、A350にはTrentXWBというエンジンが独占的に供給されています。弊社が納入しているのは、CFM International社が開発・生産している、エアバスA320neoファミリー用のLEAP 1Aエンジンと、ボーイング737MAX用のLEAP 1Bエンジンに使用されるチタンアルミブレードです。CFM International社はGE社と、弊社のお客様であるサフラン社が50%ずつ出資した合弁企業となります。そして、チタンアルミブレードが利用されている低圧タービンは、サフラン社が担当しているため、弊社はサフラン社に対してチタンアルミブレードを販売しています。航空機は現在中小型機が人気のため、A320neoファミリーと737MAXが、市場全体の受注残の8割程度を占めています。

     

    取材者:そうなのですか。A320neoファミリーと737MAXだけで8割程度とは。

     

    回答者:はい。そして、LEAPエンジンは、その中で多くの航空機に使用されています。弊社は、世界で最も売れている航空機の2機種に搭載される、最も売れているエンジンに使用されるチタンアルミブレードを供給していることとなります。

     

    取材者:承知いたしました。

     

    回答者:LEAPエンジンの低圧タービンは、5段もしくは7段編成となっていますが、前の方はニッケルという従来の素材が使われています。一番後段のみ、先端素材であるチタンアルミブレードが採用されております。このLEAPエンジンのチタンアルミブレードを製造しているのは、当社含めて世界で2社となっています。

     

    取材者:素晴らしいです。

     

    回答者:サフラン社から受注した当時、チタンアルミブレードを搭載している機体はほとんどなく、大手企業も加工経験がありませんでした。そのため、中小企業である弊社が試作品をしっかりと作り上げたことで、お客様からの評価を得ることができ、受注に至ったという経緯があります。この案件の入札には、大手企業を含めて複数社が参加していましたが、弊社が最初に試作品を提供することができました。競合は大企業、菊地歯車は中小企業でしたが、サフランは、技術力を評価し、弊社に声をかけてくれたのだと思います。

     

    取材者:森西さんを含めたチームの方々は、もともと菊地歯車にいらした方々ですか?

     

    回答者:はい、そうです。森西は、菊地歯車の成長のために、新しい案件を獲得したいと考えていました。新しい案件に取り組むにあたり、歯車技術を転用できる業界かつ、先端技術を取り入れている業界として航空機産業に目をつけ、調査を行ったところ、サフラン社が新しいエンジンにチタンアルミブレードを採用するという情報を得ました。そこで、それまで経験はなかったものの、営業をかけて試作に取り組み、受注を獲得したという経緯です。

     

    取材者:まるでプロジェクトXのようですね。森西社長は、現在おいくつなのですか?

     

    回答者:50代後半です。

     

    取材者:大学の工学部などを卒業されているわけではないのに、技術的な知識が非常に豊富なのですね。

     

    回答者:技術の知見、営業力に加えて、リーダーシップのある社長と思います。当時、菊地歯車としては、この案件はリスクファクターであったと思います。中小企業にとって、最初の投資だけで数十億かかるような案件でしたし、為替変動のリスクもありました。その中で、菊地歯車を説得し、会社を設立するには、大変な苦労があったと思います。

     

    取材者:納期が遅れると、飛行機の生産にも影響が出ますよね。

     

    回答者:航空業界はボーイングとエアバスの2強なので、その内の1社に何かあれば、グローバルなサプライチェーン全体に影響が出てしまいます。

     

    取材者:本当にすごい会社ですね。

     

    取材者:貴社の強みや特徴についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

     

    回答者:チタンアルミは固くて脆い金属間加工物であり、加工が非常に難しい素材です。お茶碗を加工するようなものなので、それを高い精度で加工できる技術は、世界でも数社しかないと考えています。弊社の強みは、加工技術力です。そのために、工具であるエンドミルも自社で開発し、設備も特注で設備メーカーに作ってもらっています。もちろん、加工のプログラムも自社で作成しています。そのため、他社が同じ設備を購入しても、同じものは作れません。また、航空機業界には、加工だけでなく、特殊工程と呼ばれる様々な工程があります。弊社は、これらの工程を一貫して担えることも強みです。試作ベースであればできる会社もあるかもしれませんが、量産ベースで安定的に製造できる会社は少ないと思います。弊社は、会社設立当初からトヨタ生産方式(TPS)を取り入れて、量産工程の安定化を図ってきました。株主である豊田通商様を通じて、TPSの専門家を招き、指導を受けました。航空機業界でTPSを取り入れている会社は少ないため、お客様からも高く評価されています。

    また、弊社は、航空機エンジンメーカーと直接取引をしており、大手重工メーカーと同じ、Tier1として事業を行っているのは、弊社の強みの一つです。ブレードの全工程を一貫して製造できる企業は、重工メーカー以外にはほとんどありません。OEMの仕様や品質要求は非常に厳しく、それらを全て理解した上で工程を構築し、加工だけでなく、非破壊検査などの特殊行程も含めて全て行うとなると、非常にハードルが高くなります。そのため、日本の中小企業は、重工メーカーの指示のもとで事業を行うのが一般的です。しかし、弊社はOEMと直接取引を行い、全ての工程を自社のコントロール下で完結させています。これは、弊社の技術力が高いことの証だと考えています。

     

    取材者:承知いたしました。

     

    回答者:このことは、ビジネス上非常に重要です。航空業界でビジネスを拡大するには、エンジンメーカーから直接仕事を受注できることが不可欠です。弊社がエンジンメーカーと直接取引しているからこそ、現在立ち上げている新しい案件の仕事も獲得できました。技術的なバックグラウンドを前提とした強みと言えると思います。

     

    取材者:飛行機の新機種の開発は、現在も盛んなのですか?

     

    回答者:新機種の開発という意味では、あまり多くないかと思います。飛行機のライフサイクルは非常に長く、例えば、737MAXは2018年頃から飛行していますが、その前の機種である737は、40年程度飛行しています。737MAXも、A320も、同じように長期にわたって生産されると言われています。

     

    取材者:二階建ての飛行機は、まだ生産されているのですか?

     

    回答者:いいえ、A380の生産は中止になりました。

     

    取材者:そうでしたか。

     

    回答者:航空業界は、現在、中小型機が主流になっています。昔は、ジャンボジェットのように、エンジンが4つ付いている飛行機もありましたが、エンジンの性能向上により、エンジンが2つでも太平洋を横断できるようになったことや、LCCの台頭により、燃費良い737MAXやA320neoファミリーのような中小型機が主流になっています。

     

    取材者:航空機業界全体の市場は、拡大しているのですか?

     

    回答者:航空業界は、年間3%から4%の成長率で拡大すると言われています。航空機だけを見ても、現在、世界中で24,000機程度の航空機が飛行しているといわれていますが、20年後にはその数が倍になると言われています。

     

    取材者:それは、中国やインドなどの新興国の旅客需要が大きく伸びているからですか?

     

    回答者:はい。経済成長に伴い、飛行機を利用する人が増えているからです。また、その他エリアも成長するといわれています。航空業界は、コロナ禍で一時的に落ち込みましたが、基本的には成長産業かと思います。

     

    取材者:エアバスとボーイングはこれからすごいですね。

     

    回答者:エアバスとボーイングは、非常に多くの受注を抱えており、10年以上先まで生産が埋まっている状況です。

     

    取材者:そうなのですね。今発注しても、10年以上先まで納入されないということですか。

     

    回答者:はい。ボーイングとエアバスの課題は、需要ではなく、供給が追いついていないことです。様々な要因がありますが、コロナ禍で航空業界が打撃を受けた際、中小企業が設備投資を抑制したり、撤退したりしたこと等、様々な要因で供給不足になっています。需要はあるのに、生産が追いつかない、というのが現在の航空業界の状況です。

     

    取材者:来年、再来年あたりの業績見通しは、ある程度予測できるものですか?

     

    回答者:はい、売上高についてですが、航空業界は、10年分の受注残を抱えています。お客様から、数年間の発注見込みが示されるので、それをベースに、中長期的な売上高の見通しを立てることができます。弊社のメイン事業であるチタンアルミブレードに関しては、来年は供給体制が厳しいこともあり、10%~15%の成長を見込んでいます。再来年は、今年度に対して40~50%程度の成長を見込んでいます。

     

    取材者:順調ですね。

     

    回答者:はい。ブレード以外の案件も二つ立ち上げており、航空機エンジン部品と航空機機体部品があります。チタンアルミブレードとは別の部品で、昨年新設した工場で、まもなく量産を開始する予定です。

     

    取材者:違うお客様向けの、違う航空機に使用される部品ということですか?

     

    回答者:はい、そうです。

     

    取材者:そもそも、貴社が上場された目的は何だったのでしょうか?

     

    回答者:上場の目的の一つが、設備投資のための資金調達です。航空機業界は、案件の立ち上げに2年ほどの期間と、10億円から20億円ほどの投資が必要となります。資金需要が非常に高い業界なので、資金調達ができないと成長することができません。上場によって、資金調達がしやすくなりました。IPO時の資金調達額は7、8億円ほどでしたが、デットファイナンスでの資金調達、リファイナンスは、上場前と比べて格段にやりやすくなりました。

     

    取材者:昨年、デットは33億円のリファイナンスをされたのですね。

     

    回答者:はい。リファイナンスなので、新規の借り入れは10億円ほどですが、既存の借り入れを減らしたため、実質的には20億円ほどの借り入れ効果がありました。

     

    取材者:今後、株価を上げなければいけませんね。株価を上げて、資金調達をしやすい状況にしないと。

     

    回答者:株価は重要な要素です。業績をしっかり上げていくことで、株価も上がっていくと考えています。

     

    取材者:そうですね。

     

    回答者:航空業界全体が、ボーイングの問題など、様々な要因で影響を受けている状況です。弊社も、航空機業界への依存度が高いため、その影響を受けているというイメージを持たれているかもしれません。新しい案件を増やし、例えばボーイングの状況に関わらず安定した業績を上げられるようにしていきたいと考えています。

     

    取材者:航空機業界以外への取り組みも、積極的に進めていらっしゃるのですか?

     

    回答者:売上高の規模としては、まだ大きくはありませんが、JR九州様との取り組みや、アメリカのeVTOL(電動垂直離着陸機)メーカーとの取り組みなどがございます。

     

    取材者:万博での飛行を目指している会社ですね。

     

    回答者:はい、そうです。まだ規模は小さいですが、ガスタービンの部品なども一部製造しています。

     

    取材者:航空機業界は、良い時もあれば悪い時もあり、メーカーの都合に左右される部分も大きいので、リスクヘッジのためにも、航空機業界以外への展開も重要かもしれませんね。

     

    回答者:そうですね。IPOの際にも、航空機業界以外への展開については言及しましたが、まだ規模が小さいので、これから拡大していく必要があります。

     

    取材者:そうですね。

     

    回答者:社内のリソースを増やすことも重要です。現在、新規量産案件である航空機エンジン部品の案件が複数立ち上がっており、リソースが逼迫しているのが現状です。

     

    取材者:承知いたしました。

     

    取材者:配当や株主還元策について、どのようなお考えをお持ちですか?

     

    回答者:現時点では、配当や自己株買いは実施していません。先ほどお話したように、様々な案件に投資を行っている段階なので、今は投資を優先した方が、結果的に株主様の利益に繋がると考えています。しかし、将来的には、株主還元も重要だと考えており、投資とのバランスを考慮しながら、検討していきたいと思っています。

     

    取材者:人材採用の状況はいかがですか?

     

    回答者:案件の立ち上げが相次いでいるので、急いで採用を進めている状況です。IPOをしたことで、採用が非常にしやすくなりました。地方の会社の場合、会社としての信用がないと、応募してもらえないことが多いので、IPOの効果は大きいと感じています。

     

    取材者:工場は、現在も足利にあるのですか?

     

    回答者:はい、そうです。

     

    取材者:地元の方も多く採用されているのでしょうね。

     

    回答者:そうですね。

     

    取材者:従業員数は、今後さらに増える予定ですか?

     

    回答者:はい。新しい量産案件が立ち上がっているので、量産体制を構築するために、一定の増員が必要と考えています。

     

    取材者:足利では、AeroEdge様は若者に人気の会社になっているかもしれませんね。

     

    回答者:そうなっていきたいです。

     

    取材者:そうですね。

     

    回答者:本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

     

    取材者:こちらこそ、ありがとうございました。

  • 取締役兼執行役員CFO コーポレート本部長 今西 貴士様

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決算概要

2025年6月期決算は、売上高が3,602百万円(前期比7.5%増)と増収を達成したものの、営業利益は655百万円(同7.1%減)、経常利益は565百万円(同33.0%減)となった。一方で、当期純利益は734百万円(同5.1%増)と過去最高となった。売上高は期中に下方修正を実施しており、当初想定を下回る結果となった。一方で、営業利益は期初予想の500百万円を上回る着地となった。当期純利益は、安定的な利益計上により、税効果会計で繰延税金資産を一括計上したことで、法人税等がマイナス(利益)となり大きく上振れした。


セグメント別または事業別の増減要因

売上高は、ボーイング社のストライキによる「チタンアルミブレード」の販売伸び悩みがあったものの、全体としては順調に増加した。A320neoファミリー向けの売上高は概ね想定通りであった。営業利益は、為替の影響に加え、前期に立ち上げを想定していた新規案件が後ろ倒しになったことで、減価償却費の負担が軽減されたことが上振れの主な要因である。


主要KPIの進捗と変化

737MAXとA320neoファミリーの受注数と納入数については、ボーイング社でストライキや品質問題、エアバス社でLEAPエンジンの納入遅れが発生している影響で、やや想定を下回っている。一方で、エンジンはスペアエンジン需要もあるため、機体の増加と比較して伸びが高いと認識している。その結果、主要KPIであるチタンアルミブレードの販売量は前期比11.5%の増加となった。


季節性・一過性要因の有無と影響

2025年6月期の業績に影響を与えた一過性要因は、為替の影響と繰延税金資産の一括計上である。為替の影響は営業利益を押し上げ、繰延税金資産の一括計上は当期純利益を大きく押し上げた。


通期見通しと進捗率・達成可能性

2026年6月期の通期見通しは、売上高4,930百万円(前期比36.9%増)、営業利益810百万円(同23.6%増)、経常利益725百万円(同28.3%増)と増収増益を見込んでいる。当期純利益は前期繰延税金資産を計上した反動で500百万円(同31.9%減)を見込んでいる。チタンアルミブレードの販売は今後も強い需要が続くと見ている。今期、販売量が27.5%伸びる見込みであり、チタンアルミブレード売上高もそれに連動して伸びる見込みである。新規案件の立ち上げや、新材料供給に伴う受託開発の売上も貢献する見通しである。


トピックス

当期は人員採用を積極的に進めており、前期に30~40名規模で採用を増やし、社員数全体で約2〜3割増加している。これは、国内の地元採用に加え、海外の大学との連携を含むグローバルな採用活動の成果である。新規案件の立ち上げや、新材料の供給に伴う受託開発の売上も今後のトピックスとなる。

AeroEdge(株)

東証GRT 7409

決算:6月末日

取材アーカイブ

  • 創業の経緯

    現在の社長の森西氏は、自動車や建設機械などの歯車を製造する菊地歯車という会社の一社員であった。森西氏は、菊地歯車の成長を目指す中で、成長産業である航空機ビジネスに可能性を見出し、航空機産業に参入。サフラン社の案件を獲得するも、航空機ビジネスは初期投資が大きく、初めての海外取引で為替リスクも負う必要があったため、自ら会社を設立することを決意し、DBJ様や豊通様などからの出資も得て、独立してAeroEdgeを立ち上げたという経緯を持つ。

     

    ビジネスモデル

    AeroEdge社のビジネスモデルは、航空機エンジンの部品製造を中核とする。

    この業界は、航空機メーカーがボーイングとエアバスの2社で中・大型機の市場のほぼ100%を占めるという寡占市場であり、航空機エンジンも大きく分けてGE、Pratt & Whitney、Rolls-Royce、Safran社による寡占状態にある。AeroEdge社は、エアバスA320neoファミリー向けCFM International (GEとSafranの合弁会社)のLEAPエンジンと、ボーイング737MAX用のLEAPエンジンに使用されるチタンアルミブレードを供給している。LEAPエンジンは、多くの航空機に採用されており、市場の大きなシェアを占めている。

     

    特徴や強み

    AeroEdge社の強みは、チタンアルミブレードの加工技術力である。

    LEAPエンジン向けチタンアルミブレードを製造しているのは、世界で2社しかなく、AeroEdge社はそのうちの1社であり、40%のシェアを持つ。チタンアルミは固くて脆く、また形状が複雑であることから加工が非常に難しい。それを実現できる能力が同社の強みであり、加工用工具(エンドミル)も自社で開発・製造し、設備も特注で設備メーカーに依頼している。また、航空機業界には、加工だけでなく、特殊工程と呼ばれる様々な工程があるが、同社はこれらの工程を一貫して担えることも強みである。

     

    成長戦略

    同社の将来展望としては、今後も需要が拡大することが見込まれるチタンアルミブレード事業の拡大、加工技術を活用した新たな量産案件の拡大、並びにチタンアルミブレードの新材料の量産がある。新たな量産案件としては、本社工場敷地に新工場を建設し、量産開始に向けて取り組んでいる。

    また、積層造形技術(3Dプリンター)を活用した開発も進めており、新たな製造業ビジネスを確立していくことを目指す。

     

    航空機業界の市場動向

    航空業界は、年間3%から4%の成長率で拡大すると言われており、今後も成長が見込まれる。航空機メーカーのエアバスとボーイングは、非常に多くの受注を抱えており、受注残は10年以上となっている。

     

    業績見通し

    同社のメイン事業であるチタンアルミブレードの販売数量は、来期は10%~15%の成長を見込み、再来期は今期に対して40~50%程度の成長を見込んでいる。来期の成長率がやや限定されるのは、ボーイングが品質問題等により生産拡大に時間がかかっているからである。

     

    新規案件

    同社は、新たな航空機エンジン部品の量産を進める予定である。これらはチタンアルミブレードとは別の部品であり、昨年新設した工場で、まもなく量産を開始する予定である。

     

    株主還元策

    現時点では、配当や自己株買いは実施していないが、将来的には株主還元も重要だと考えており、成長投資とのバランスを考慮しながら、検討していく方針である。

  • Q:特徴や優位性をご説明ください。

    A:弊社の強みは、高度な加工技術力にあります。

    チタンアルミブレードは、その構造上、非常に複雑な形状であり、それを高い精度で量産するには、高度な技術力が求められますが、弊社はその能力を有しています。この高度な加工技術を実現するため、エンドミルなどの工具も自社で開発・製造し、生産設備についても設備メーカーに特注で製造を依頼し、加工プログラムも自社で作成しています。そのため、他社が同じ設備を導入したとしても、同等の製品を製造することは困難です。また、航空機業界では、部品の加工のみならず、特殊工程と呼ばれる様々な工程が存在しますが、弊社はこれらの工程を一貫して担うことが可能です。試作段階であれば対応可能な企業もあるかもしれませんが、量産ベースで安定的に製造できる企業は世界でも限定されると考えています。

    弊社は、会社設立当初よりトヨタ生産方式(TPS)を導入し、量産工程の安定化を図ってきました。株主である豊田通商様を通じて、TPSの専門家を招き、指導を受けたことも、弊社の強みです。

    さらに、弊社は、航空機エンジンメーカーと直接取引を行っており、これは航空業界において非常に重要な意味を持ちます。日本の中小企業で航空機関連事業に携わっている企業の多くは、重工メーカーのTier2(二次請け)サプライヤーであり、重工メーカーでさえ、OEMのTier1(一次請け)サプライヤーという位置づけです。

    中小企業が工程の一部を担当するという形態が一般的ですが、ブレードの全工程を一貫して製造できる中小企業は、重工メーカー以外にはほとんどありません。OEMの仕様や品質要求は非常に厳しく、それらを全て理解した上で工程を構築し、加工だけでなく、非破壊検査などの特殊行程も含めた全ての工程を担うことは、非常に高いハードルとなります。そのため、日本の中小企業は、重工メーカーの指示のもとで事業を行うのが一般的です。しかし、弊社はOEMと直接取引を行い、全ての工程を自社で完結させています。これは、弊社の技術力が高いことの証であると考えています。

     

    Q:成長戦略のポイント(今後の取り組みやトピックスなどを含む)はなんでしょうか?

    A:成長戦略としては、今後も需要が拡大することが見込まれるチタンアルミブレード事業の拡大、加工技術を活用した新たな量産案件の拡大、並びにチタンアルミブレードの新材料の量産があります。新たな量産案件としては、本社工場敷地に新工場を建設し、量産開始に向けて取り組んでいます。

    また、積層造形技術(3Dプリンター)を活用した開発も進めており、新たな製造業ビジネスを確立していくことを目指してまいります。

     

    Q:株主還元の方針をご説明ください。

    A:現時点では、配当や自己株買いなどの株主還元策は実施しておりません。現在、様々な案件に積極的に投資を行っている段階であり、株主還元よりも事業への投資を優先することが、結果的に株主様の利益に繋がると考えているためです。しかし、将来的な株主還元は重要な経営課題であると認識しており、今後の投資計画とのバランスを考慮しながら、具体的な実施策を検討してまいります。

  • 取材者:AeroEdgeというお名前は、社員の皆様が決められたのですか?

     

    回答者:はい、そうです。複数の候補の中から、最終的には社員の投票で決定しました。

     

    取材者:もともとは菊地歯車という会社だったのでしょうか。

     

    回答者:弊社は、足利で80年以上の歴史がある老舗のオーナー企業である菊地歯車からスピンアウトした会社となります。

     

    取材者:菊地歯車は、もともと航空機関係の事業をされていたのですか?

     

    回答者:菊地歯車は、自動車や建設機械などの歯車を製造している会社でした。現在の弊社社長の森西は、当時そこで社員として在籍しておりました。一方で、森西は、いち社員として、会社の成長に不安を覚えており、その中で、成長産業である航空機ビジネスに可能性を見出し、営業部長として航空機産業に参入しようとしました。サフランという案件を獲得したものの、航空機ビジネスは初期投資が大きく、初めての海外取引で為替リスクも負う必要があったため、森西が自ら会社をスピンアウトして設立することを決意し、その後、DBJ様や豊田通商様などからの出資も得て、独立して会社を立ち上げたという経緯です。そのため、現在は、菊地歯車とはビジネス上のつながりはありません。

     

    取材者:株主構成を拝見しましたが、株主様に菊地歯車がいらっしゃいますね。

     

    回答者:はい、会社をスピンアウトした際、元々100%だった出資比率が、増資や上場時の売出しなどを経て、20%弱まで低下しました。

     

    取材者:菊地歯車との間に利害関係はないということですか?

     

    回答者:ええ、特にありません。良好な関係を築いており、株主様として大変ありがたく思っています。

     

    取材者:80年以上も事業を継続されている菊地歯車というバックボーンは、信用につながりますね。

     

    回答者:そうですね。森西がスピンアウトしましたが、立ち上げ時の銀行借入の際は、菊地歯車の保証が必要でした。立ち上げにおいては、菊地歯車の存在が不可欠だったのは事実です。

     

    取材者:創業の経緯についてお伺いしたかったので、お答えいただき大変助かりました。それでは、貴社のビジネスモデルについてご説明いただけますか?

     

    回答者:はい、弊社のビジネスですが、航空機エンジンの部品を製造しております。航空機業界は非常に特殊で、自動車産業などとは異なり、寡占市場となっています。ご存知の通り、航空機メーカーはボーイング社とエアバス社の2社で、中・大型は市場のほぼ100%を占めています。同様に、航空機エンジンも寡占状態にあります。大きく分けて、アメリカのGE、Pratt & Whitney社、イギリスのRolls-Royce社となっています。

     

    取材者:自動車メーカーはエンジンを自社で製造するのが一般的ですが、航空機メーカーは違うのですか?

     

    回答者:はい、航空機用エンジンは、航空機同様に開発に巨額の資金が必要となり、ボーイング社やエアバス社でも自社で開発する余裕がないというのが実情かと思います。

     

    取材者:そうなのですか。

     

    回答者:はい。また、航空機と航空機エンジンの種類も非常に限られています。例えば、ボーイング社は基本的に777、787、737MAXの3機種のみを新規で受注しており、エアバス社もA350、A330、A320neoファミリー、A220の4機種のみです。そして、それぞれの機体に専用のエンジンが搭載されています。例えば、A350にはTrentXWBというエンジンが独占的に供給されています。弊社が納入しているのは、CFM International社が開発・生産している、エアバスA320neoファミリー用のLEAP 1Aエンジンと、ボーイング737MAX用のLEAP 1Bエンジンに使用されるチタンアルミブレードです。CFM International社はGE社と、弊社のお客様であるサフラン社が50%ずつ出資した合弁企業となります。そして、チタンアルミブレードが利用されている低圧タービンは、サフラン社が担当しているため、弊社はサフラン社に対してチタンアルミブレードを販売しています。航空機は現在中小型機が人気のため、A320neoファミリーと737MAXが、市場全体の受注残の8割程度を占めています。

     

    取材者:そうなのですか。A320neoファミリーと737MAXだけで8割程度とは。

     

    回答者:はい。そして、LEAPエンジンは、その中で多くの航空機に使用されています。弊社は、世界で最も売れている航空機の2機種に搭載される、最も売れているエンジンに使用されるチタンアルミブレードを供給していることとなります。

     

    取材者:承知いたしました。

     

    回答者:LEAPエンジンの低圧タービンは、5段もしくは7段編成となっていますが、前の方はニッケルという従来の素材が使われています。一番後段のみ、先端素材であるチタンアルミブレードが採用されております。このLEAPエンジンのチタンアルミブレードを製造しているのは、当社含めて世界で2社となっています。

     

    取材者:素晴らしいです。

     

    回答者:サフラン社から受注した当時、チタンアルミブレードを搭載している機体はほとんどなく、大手企業も加工経験がありませんでした。そのため、中小企業である弊社が試作品をしっかりと作り上げたことで、お客様からの評価を得ることができ、受注に至ったという経緯があります。この案件の入札には、大手企業を含めて複数社が参加していましたが、弊社が最初に試作品を提供することができました。競合は大企業、菊地歯車は中小企業でしたが、サフランは、技術力を評価し、弊社に声をかけてくれたのだと思います。

     

    取材者:森西さんを含めたチームの方々は、もともと菊地歯車にいらした方々ですか?

     

    回答者:はい、そうです。森西は、菊地歯車の成長のために、新しい案件を獲得したいと考えていました。新しい案件に取り組むにあたり、歯車技術を転用できる業界かつ、先端技術を取り入れている業界として航空機産業に目をつけ、調査を行ったところ、サフラン社が新しいエンジンにチタンアルミブレードを採用するという情報を得ました。そこで、それまで経験はなかったものの、営業をかけて試作に取り組み、受注を獲得したという経緯です。

     

    取材者:まるでプロジェクトXのようですね。森西社長は、現在おいくつなのですか?

     

    回答者:50代後半です。

     

    取材者:大学の工学部などを卒業されているわけではないのに、技術的な知識が非常に豊富なのですね。

     

    回答者:技術の知見、営業力に加えて、リーダーシップのある社長と思います。当時、菊地歯車としては、この案件はリスクファクターであったと思います。中小企業にとって、最初の投資だけで数十億かかるような案件でしたし、為替変動のリスクもありました。その中で、菊地歯車を説得し、会社を設立するには、大変な苦労があったと思います。

     

    取材者:納期が遅れると、飛行機の生産にも影響が出ますよね。

     

    回答者:航空業界はボーイングとエアバスの2強なので、その内の1社に何かあれば、グローバルなサプライチェーン全体に影響が出てしまいます。

     

    取材者:本当にすごい会社ですね。

     

    取材者:貴社の強みや特徴についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

     

    回答者:チタンアルミは固くて脆い金属間加工物であり、加工が非常に難しい素材です。お茶碗を加工するようなものなので、それを高い精度で加工できる技術は、世界でも数社しかないと考えています。弊社の強みは、加工技術力です。そのために、工具であるエンドミルも自社で開発し、設備も特注で設備メーカーに作ってもらっています。もちろん、加工のプログラムも自社で作成しています。そのため、他社が同じ設備を購入しても、同じものは作れません。また、航空機業界には、加工だけでなく、特殊工程と呼ばれる様々な工程があります。弊社は、これらの工程を一貫して担えることも強みです。試作ベースであればできる会社もあるかもしれませんが、量産ベースで安定的に製造できる会社は少ないと思います。弊社は、会社設立当初からトヨタ生産方式(TPS)を取り入れて、量産工程の安定化を図ってきました。株主である豊田通商様を通じて、TPSの専門家を招き、指導を受けました。航空機業界でTPSを取り入れている会社は少ないため、お客様からも高く評価されています。

    また、弊社は、航空機エンジンメーカーと直接取引をしており、大手重工メーカーと同じ、Tier1として事業を行っているのは、弊社の強みの一つです。ブレードの全工程を一貫して製造できる企業は、重工メーカー以外にはほとんどありません。OEMの仕様や品質要求は非常に厳しく、それらを全て理解した上で工程を構築し、加工だけでなく、非破壊検査などの特殊行程も含めて全て行うとなると、非常にハードルが高くなります。そのため、日本の中小企業は、重工メーカーの指示のもとで事業を行うのが一般的です。しかし、弊社はOEMと直接取引を行い、全ての工程を自社のコントロール下で完結させています。これは、弊社の技術力が高いことの証だと考えています。

     

    取材者:承知いたしました。

     

    回答者:このことは、ビジネス上非常に重要です。航空業界でビジネスを拡大するには、エンジンメーカーから直接仕事を受注できることが不可欠です。弊社がエンジンメーカーと直接取引しているからこそ、現在立ち上げている新しい案件の仕事も獲得できました。技術的なバックグラウンドを前提とした強みと言えると思います。

     

    取材者:飛行機の新機種の開発は、現在も盛んなのですか?

     

    回答者:新機種の開発という意味では、あまり多くないかと思います。飛行機のライフサイクルは非常に長く、例えば、737MAXは2018年頃から飛行していますが、その前の機種である737は、40年程度飛行しています。737MAXも、A320も、同じように長期にわたって生産されると言われています。

     

    取材者:二階建ての飛行機は、まだ生産されているのですか?

     

    回答者:いいえ、A380の生産は中止になりました。

     

    取材者:そうでしたか。

     

    回答者:航空業界は、現在、中小型機が主流になっています。昔は、ジャンボジェットのように、エンジンが4つ付いている飛行機もありましたが、エンジンの性能向上により、エンジンが2つでも太平洋を横断できるようになったことや、LCCの台頭により、燃費良い737MAXやA320neoファミリーのような中小型機が主流になっています。

     

    取材者:航空機業界全体の市場は、拡大しているのですか?

     

    回答者:航空業界は、年間3%から4%の成長率で拡大すると言われています。航空機だけを見ても、現在、世界中で24,000機程度の航空機が飛行しているといわれていますが、20年後にはその数が倍になると言われています。

     

    取材者:それは、中国やインドなどの新興国の旅客需要が大きく伸びているからですか?

     

    回答者:はい。経済成長に伴い、飛行機を利用する人が増えているからです。また、その他エリアも成長するといわれています。航空業界は、コロナ禍で一時的に落ち込みましたが、基本的には成長産業かと思います。

     

    取材者:エアバスとボーイングはこれからすごいですね。

     

    回答者:エアバスとボーイングは、非常に多くの受注を抱えており、10年以上先まで生産が埋まっている状況です。

     

    取材者:そうなのですね。今発注しても、10年以上先まで納入されないということですか。

     

    回答者:はい。ボーイングとエアバスの課題は、需要ではなく、供給が追いついていないことです。様々な要因がありますが、コロナ禍で航空業界が打撃を受けた際、中小企業が設備投資を抑制したり、撤退したりしたこと等、様々な要因で供給不足になっています。需要はあるのに、生産が追いつかない、というのが現在の航空業界の状況です。

     

    取材者:来年、再来年あたりの業績見通しは、ある程度予測できるものですか?

     

    回答者:はい、売上高についてですが、航空業界は、10年分の受注残を抱えています。お客様から、数年間の発注見込みが示されるので、それをベースに、中長期的な売上高の見通しを立てることができます。弊社のメイン事業であるチタンアルミブレードに関しては、来年は供給体制が厳しいこともあり、10%~15%の成長を見込んでいます。再来年は、今年度に対して40~50%程度の成長を見込んでいます。

     

    取材者:順調ですね。

     

    回答者:はい。ブレード以外の案件も二つ立ち上げており、航空機エンジン部品と航空機機体部品があります。チタンアルミブレードとは別の部品で、昨年新設した工場で、まもなく量産を開始する予定です。

     

    取材者:違うお客様向けの、違う航空機に使用される部品ということですか?

     

    回答者:はい、そうです。

     

    取材者:そもそも、貴社が上場された目的は何だったのでしょうか?

     

    回答者:上場の目的の一つが、設備投資のための資金調達です。航空機業界は、案件の立ち上げに2年ほどの期間と、10億円から20億円ほどの投資が必要となります。資金需要が非常に高い業界なので、資金調達ができないと成長することができません。上場によって、資金調達がしやすくなりました。IPO時の資金調達額は7、8億円ほどでしたが、デットファイナンスでの資金調達、リファイナンスは、上場前と比べて格段にやりやすくなりました。

     

    取材者:昨年、デットは33億円のリファイナンスをされたのですね。

     

    回答者:はい。リファイナンスなので、新規の借り入れは10億円ほどですが、既存の借り入れを減らしたため、実質的には20億円ほどの借り入れ効果がありました。

     

    取材者:今後、株価を上げなければいけませんね。株価を上げて、資金調達をしやすい状況にしないと。

     

    回答者:株価は重要な要素です。業績をしっかり上げていくことで、株価も上がっていくと考えています。

     

    取材者:そうですね。

     

    回答者:航空業界全体が、ボーイングの問題など、様々な要因で影響を受けている状況です。弊社も、航空機業界への依存度が高いため、その影響を受けているというイメージを持たれているかもしれません。新しい案件を増やし、例えばボーイングの状況に関わらず安定した業績を上げられるようにしていきたいと考えています。

     

    取材者:航空機業界以外への取り組みも、積極的に進めていらっしゃるのですか?

     

    回答者:売上高の規模としては、まだ大きくはありませんが、JR九州様との取り組みや、アメリカのeVTOL(電動垂直離着陸機)メーカーとの取り組みなどがございます。

     

    取材者:万博での飛行を目指している会社ですね。

     

    回答者:はい、そうです。まだ規模は小さいですが、ガスタービンの部品なども一部製造しています。

     

    取材者:航空機業界は、良い時もあれば悪い時もあり、メーカーの都合に左右される部分も大きいので、リスクヘッジのためにも、航空機業界以外への展開も重要かもしれませんね。

     

    回答者:そうですね。IPOの際にも、航空機業界以外への展開については言及しましたが、まだ規模が小さいので、これから拡大していく必要があります。

     

    取材者:そうですね。

     

    回答者:社内のリソースを増やすことも重要です。現在、新規量産案件である航空機エンジン部品の案件が複数立ち上がっており、リソースが逼迫しているのが現状です。

     

    取材者:承知いたしました。

     

    取材者:配当や株主還元策について、どのようなお考えをお持ちですか?

     

    回答者:現時点では、配当や自己株買いは実施していません。先ほどお話したように、様々な案件に投資を行っている段階なので、今は投資を優先した方が、結果的に株主様の利益に繋がると考えています。しかし、将来的には、株主還元も重要だと考えており、投資とのバランスを考慮しながら、検討していきたいと思っています。

     

    取材者:人材採用の状況はいかがですか?

     

    回答者:案件の立ち上げが相次いでいるので、急いで採用を進めている状況です。IPOをしたことで、採用が非常にしやすくなりました。地方の会社の場合、会社としての信用がないと、応募してもらえないことが多いので、IPOの効果は大きいと感じています。

     

    取材者:工場は、現在も足利にあるのですか?

     

    回答者:はい、そうです。

     

    取材者:地元の方も多く採用されているのでしょうね。

     

    回答者:そうですね。

     

    取材者:従業員数は、今後さらに増える予定ですか?

     

    回答者:はい。新しい量産案件が立ち上がっているので、量産体制を構築するために、一定の増員が必要と考えています。

     

    取材者:足利では、AeroEdge様は若者に人気の会社になっているかもしれませんね。

     

    回答者:そうなっていきたいです。

     

    取材者:そうですね。

     

    回答者:本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

     

    取材者:こちらこそ、ありがとうございました。

  • 取締役兼執行役員CFO コーポレート本部長 今西 貴士様

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